あることないこと

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BUMP OF CHICKEN 『COSMONAUT』 を振り返る


< 今もいつか過去になって 取り戻せなくなるから / それが未来の 今のうちに ちゃんと取り戻しておきたいから >(「宇宙飛行士への手紙」)
とか、
< 言葉より声を 声より唄を 唄から心を 心の言葉を >
< あなたに声を 声より唄を 唄から心を 心にあなたを >(「angel fall」)
とか。
単語をすり替えてぐるっと一周して、だけども文意を破綻させずに真理をつく、みたいな言葉の使い方が好きだ。言葉で時空間を縦横無尽に駆けて現在地に戻ってくる「R.I.P.」とか、悲しみも喜びも同じ感情としてイコールで結ぶことから始めてあの最後に帰着する「HAPPY」とか。一節じゃなくて一曲をかけて言葉で遊ぶ曲もある。

『COSMONAUT』の頃のインタビューは、リズム遊びについて言及されていることが多かった気がするけれど、一曲の完成までにリズムや音をどうやって組み立てるかを考えるのと同じぐらい、何かひとつのことを言うために言葉をどうやって組み立てたり運んだりするか、みたいなことも練っていた時期なのかなと思う。バンプはいつもそうだと思うので別にこのアルバムに限った話ではないのだけれど、特にこの時期は音と言葉の絡まりが際立っている気がする。


今年になって雑誌「B=PASS」の連載で、『COSMONAUT』のオープニング「三ツ星カルテット」に、音と歌詞にまつわるちょっとした秘密があったことが明かされていた。音楽的な仕掛けがあるんだよと。「気付いてもらいたかった」気持ちがあったよ、なんてことが書かれていた。< 世界は大概素晴らしいらしい > と歌う部分。

「らしいらしい」の語感が面白いなぁくらいにしか思っていなかった私はそれまで全く気付けなかったけれど、読んで聴き直してすぐに気が付いた。すぐに解るぐらいの本当にちょっとした仕掛けというか遊び心だったのだけど、そのあとに続く歌詞 < 夜に色が付くまでに 秘密の唄を歌おう > や < 僕らはずっと呼び合って 音符という記号になった > の意味が膨らんだ気がして、それはもう、それはそれはあったかい気持ちになっちゃったりして。「気付いてもらいたかった」気持ちを守るという理由で答えが書かれていなかったので、おそらくこの先も、「秘密の唄」のままなのかも。

「うた」における音と言葉は持ちつ持たれつ、絡まって補い合って何倍にも響くもので、だからこのバンドは言葉だけでも音楽だけでもなくて、唄を歌うことを選んだのだなと思うことが、たくさんある。


BUMP OF CHICKEN『COSMONAUT』(2010)

1.三ツ星カルテット
2.R.I.P.
3.ウェザーリポート
4.分別奮闘記
5.モーターサイクル
6.透明飛行船
7.魔法の料理~君から君へ~
8.HAPPY
9.66号線
10.セントエルモの火
11.angel fall
12.宇宙飛行士への手紙
13.イノセント
14.beautiful glider

 

 

BUMP OF CHICKEN 「Butterfly」



BUMP OF CHICKEN「Butterfly」


誰にも聞こえないと思っている悲鳴を、実は誰だって抱えているのだということ。だけど、自分のそれがいかに大切で綺麗なものであるか理解し切れるのは、自分自身だけだということ。
だから<量産型>って、「あなただけじゃないけど、あなただけなんだよ」みたいな意味だと私は勝手に思っている。自分の口から出る皮肉や自虐も受け入れて、そのあとの「でもね」もしくは「ならば」を歌う唄。

変わらないまま変わろうとすることは本当に難しいけど、そうあってほしい。
同時に、彼らの歌は、童謡のように歌われ聴き継がれていくものであってほしい。

歌を届けようとするこのバンドの音楽と、それに付随する諸々は、多くに望まれたほうではなくて、彼ら自身の望むままに鳴らされ、選ばれていれば、きっとずっと残っていく。大丈夫だと思う。


だからどうか、「今」を追いかけ続けていて。
あんまり「今」に、飲み込まれないでいて。

 

LILI LIMIT

だいぶ時間が経ってしまったけれど、9月19日(土)、渋谷WWWでのことを。LILI LIMIT のミニアルバム『Etudes』リリースツアー中の一公演  “size [M]” を観てきた。対バン相手は彼らと同じ事務所の先輩である Suck a Stew Dry。受付で「どちらのバンドがお目当てですか?」と訊かれるけれど、私はいつも「どっちもです」はアリなのか一瞬迷った挙句、結局その時にどちらかと言えばこっちと思っているほうを口走ってしまっている気がする。この日は LILI LIMITと口から出た。


LILI LIMIT 1st mini album "Etudes" Digest - YouTube

( 曲は始まりから順に、at good mountain ~ Girls like Chagall ~ zine line ~ h.e.w. ~ Tokyo city club ~ in your site )

 

私が LILI LIMIT と出会ったのは、今年の春ごろにラジオで「Girls like Chagall」を聴いたことだった。「ロックにエレクトロニカ、ダンスミュージック、ヒップホップまでも混ぜたような楽曲」と紹介されていたと思う。確かに縦にも横にも体を揺らしたくなる楽曲で、造語だという<アニュマニデイズ>の歌詞が耳に残り、「シャガール」という単語を用いるお洒落さにも惹かれた。この日は2曲目に演奏され、<その時シャッターを閉めたガール>という歌詞に沿って、Vo.牧野くんが片手を顔の前にかざし目を隠すポーズを取るのが印象的だった。

「Girls like Chagall」はシングル化されるまでウェブ上に音源がなく、その発売まで私は YouTubeSoundCloud に上がっていた他の楽曲を聴いていた。なかでも好きになったのが「in your site」。その時点では英詞の楽曲だったのが、7月に発売されたミニアルバムでは、リアレンジが施された日本語詞での収録となっていた。

後に、楽曲制作の中心を担うGt.土器くんのツイートで知ることになったけれど、この曲はもう4回ほどアレンジされているとのこと。ライブではもちろん最新形を演奏してくれた。とても熱かった。繊細な始まりから一転、後半には爆発的にエモーショナルさを増すこの曲は、音源ですでに完成されたものと思っていたけれど、ライブでさらに熱を上げていたように感じられて圧巻だった。

新曲だと披露された「Festa」は、これまでのどの曲よりも光度があって、その名の通り会場が祝祭感に包まれるような楽曲だった。きっと、これからもっと多くの人に知られていくであろうこのバンドの未来に、ここよりもっと大きなステージで聴きたい1曲だと思った。

新曲に続いたのは「at good mountain」。<容赦なく>と始まりのフレーズを放ったあと、牧野くんは歌うのを止めて少しうつむいた。声が途切れても音楽は止まらない。その数秒間に牧野くんが何を思っていたのか、その表情からだけでは読み取れなかったけれど、私は反射的に、その空白を埋めるみたいに続きの歌詞を口ずさんだし、空で歌えるくらいこの曲を繰り返し聴いてきた自分に気付いたりもした。

これまでの自分の人生のなかでも特に重たく続く日々に、この曲が沁みないわけがなかった。
<雨を降らす事はとてもいい 大地にとって救われる物なんだ>の詞に励まされ、<言い訳なんてきっと妄想 紙芝居の中の絵空事>には背筋が伸びた。
<シワのついたシャツを伸ばす 伸びためた前髪を切る すると視界は広がって ほんの少し悩みは消えた>を信じないと、私の新しい日常はやっていけなかった。
本編がこの曲で終わり、心からありがとうと言いたい気持ちで拍手をしていた気がする。

 


LILI LIMIT「at good mountain」 - YouTube

 “size[M]” と銘打たれたこの日のライブは、“size[S]” から始まった LILI LIMIT にとって初めてのロングセット=持ち時間60分のライブだった。「at good mountain」のようにストレートな言葉で日常に寄り添ってくれるポップな曲もあれば、独特な言葉で世界を切り取り、変拍子や展開の気持ち良さでそれを伝えてくるような曲もあるから、1時間なんてあっと言う間で目が離せなかった。

私は[S]には間に合わなかったけれど、歌が止まったあの瞬間にバンドが感じていたものが、この日のライブへの感慨のようなものだったとしたら、そんな場面に立ち会えたことを嬉しく思う。

 

<セットリスト>

1 h.e.w.
2 Girls like Chagall
3 ±0
4 Tokyo city club
5 Boys eat Noodle
6 in your site
7 morning coffee
8 zine line
9 Festa
10 at good mountain
en.1 Tokyo Noise
en.2 RIP