BUMP OF CHICKEN ツアー「PATHFINDER」 #2
「pinkie」
幕張メッセ。「次の曲も、知ってるかな?」と、歌の人が冗談っぽく小首を傾げて始まった。
ストリングスが低音から立ち上がる。いつも定位置のマイクが、おもむろにスタンドから取り外される。ギターの人が歌のすぐ隣へやってくる。向かい合って、最初のワンフレーズ。歌い終えた右手の拳が、ギターの胸をトンと小突く。笑い合う。そろって客席に向き直る。ひらひら踊るピアノのライン。マイクはずっと右手の中。ステージから延びた花道の上を歩き出した歌が歌う。
<あなたのためとは言えないけど あなた一人が聴いてくれたら もうそれでいい>
ストリングスのピチカート。ベースとドラムが追いつき趣を変え、いよいよ温度を上げる、季節外れの桜の唄。
信じられなかった。いつか演奏してもらえる日をずっと待っていた。気付けば7年間も、「懐かしい」なんて思えないくらいずっとずっと聴いてきた。
低く弦が鳴った瞬間、変な音を立てて息をのんでしまった。「知ってるよ!」と声に出来ずに叫んだそのあとの景色が、全然知っているものではなかった。ハンドマイクで歩きながら歌うというただの所作でも、BUMP OF CHICKEN のこれまでにはほとんどなかったことだった。目の前の出来事が本当に信じられなかった。この曲をライブで初めて、それも、こんなにも楽しそうに…
そのあとの光景は正直あんまり覚えていない。振り切れた興奮に、視界が滲んでいたせいもあった。ただ、耳は立てていて、身も心もずっと踊っていて、その音像と体感と、すごく嬉しくて幸せだった記憶だけはちゃんと持ち帰ってきた。
眩しさや温かさを肯定し願いながら、陽の当たらない場所に居るような気持ちだって歌ってきたバンドだ。その影を今でも大事に抱えたまま、今日はこんなにも楽しそうに、今日も変わらず真剣に歌を届けてくれる、その姿に思ったのは、彼らの未来がこんな今なら、自分のこれからだってもう少し信じてみてもいいかな、ということだった。
帰りの電車に乗って少し経ってから気付いた。そんなことを思えたのも、たぶん、<未来の私を思い出せたら あなたとの今を忘れなくていい>って歌を聴いたから。忘れたくないくらいの今日があったからなんだなって。