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3月の楽しみ③ BUMP OF CHICKEN 『RAY』

そもそも私は自分の気持ちを伝えることが苦手で、でも感じた事や思いがあるのなら、それを何とか、できるだけその感情と近い言葉に、できるものならなるべく論理的で理性のある“伝わる”言葉にしておきたいと思って、こういう場所で書き始めたのですが。
BUMP OF CHICKEN の楽曲には、あまりにも自分をよく投影してしまうせいか、それらから得られる情報量はなかなか言葉に落とし込めません。『RAY』を聴いてまず確かだったのは、なんだか胸が詰まるような思いだったのと、期待して待っていて本当によかったと思えた、ということ。


BUMPはバンド物語とともに聴いてしまう、他の音楽とはどうしても切り離した聴き方を私はしてしまいがちなので(これは私に限らずファンのみなさんの多くも同じじゃないかとも思うのですが)、とても純粋な「こんな音も鳴らすんだ!こんな唄も歌うんだ!」というわくわくやどきどき、出会いの喜びがこのアルバムにもありました。

これまでにもあったようでいて、アメリカン・カントリー的な要素がこれほどまでに強い曲は意外となかったんじゃないかと思う『morning glow』のグルーヴ。
シンプルだと思ったら、声の熱量が上がっていくさまに私まで熱くなった『トーチ』。
某音専紙やツイッターで4年前から絶賛されていた『(please) forgive』のメロディーは納得の美しさで鳥肌。
シンセやストリングスで今までにも増して音的に踏み込んだ試みのある『ray』は、アウトロまでバンドとしては斬新で驚くばかり。
配信シングルだった『虹を待つ人』は、CDの立体的でライブの臨場感さえあるような新しい音に生まれ変わっていました。

そして同時に、詞をよく聴けば、その節々でナイフを突き立てられたような、息が詰まるような感覚に襲われる瞬間が、BUMPの音楽には必ず。それはとてもシンプルなことで、BUMPが“光”を歌うために必ず“陰”も歌うバンドだから、だと思うのです。
「BUMPは背中を押してくれる!」とはよく耳に目にする感想ですが、勇気が出るおまじないのような言葉だけがぽんぽんと書かれているわけではなく。途方も無い現実や事実に向き合って、それを誰が聴いてもそれぞれの物語として受け取れるような普遍性でもって描写して、そこから生きることの意味、喜び、推進力のようなものを必ず見つけ出して、沈み込んだ場所から再浮上するような。
だから私なんぞは「勇気もらった!」なんて思う前に、身に覚えのある現実を突きつけられて、ぐさりとやられたような気分になります。でも、それがあるから、あってこそ、歌の出口は何倍も意味を増しているのだろうなと。

厳しくも温かく、鋭利であって柔らかい。土っぽく地に根差していると思えば、浮遊感もあるような。切なくなって、その苦しささえも嬉しく愛おしく感じるなんて、不思議なものです。

全曲を通して、このアルバムで歌われる「私とあなた」に、「自分と、自分の中に居るもうひとりの自分」というのを私は見出しています。それは「理性と感情」とか「頭と心」と言い換えられるかも知れない。
心が望まなくても、頭で選ばなければいけないことがある苦しさとか、心が描く理想に、頭や体がどうしたってついていけない現実がある切なさとか。自分と自分との葛藤や、どうやって自分の中の自分に折り合いをつけていくのかということを、どの曲でも歌っているように思います。
ただ、そこから逆説的に、必ず描き出されているのは、「頭を使って進むべき時にも、心という指針がある強さ」なんじゃないかと。それは必ずしも、心=自分の中の自分が望むままの選択をする、ということではなく、望まない選択をせざるを得ない現実が、実は自分の心の在り処を確認させてくれるし、その心、自分の芯を忘れさえしなければ、いかようにも選択して進んでいけるんだ、ということだと思うんです。

自分の中の自分は、絶対に譲れないものを持っていて動かない。それを理解さえすれば、自分は安心してどこにでも行ける。変わらないから、変われる、ということ。この感覚は、普遍であることを大切にしながら様々なチャレンジを試みるようになったバンド自体の最近の動きを見るにしても、とても説得力があるように思います。

不思議なことには、『ゼロ』『友達の唄』『グッドラック』といった既発曲での「私とあなた」は文字通り「自分と自分以外の誰か」であると思っていたのが、アルバムに収まったこれらを聴くとやはり「自分と自分」とも捉えられること。
これからも私自身の聴くタイミングによって、姿を変えていく曲たちなんでしょう。そういう懐の深さがBUMPの楽曲群にはあるような。

最後に。『RAY』は「光線」。
どこにでも行ける自分を照らす光の源は、どこにも行かない自分自身。
光は陰を作るけど、陰は必ず光の存在を教えてくれる。
私の色眼鏡で見るに、とても“BUMPらしい”アルバムだと思いました。